東京地方裁判所 昭和52年(刑わ)4182号 判決 1977年12月19日
主文
1 被告人を懲役一年に処する。
2 未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。
3 押収してある普通預金請求書一枚、定額郵便貯金証書三枚(昭和五二年押第二三三四号の一ないし四)の各偽造部分を没収する。
4 押収してある定額郵便貯金証書三枚(前同号の二ないし四)(各偽造部分を除く)は、被害者大野りよに還付する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和五二年八月三日午後五時三〇分ころ、東京都江戸川区堀江町三、八四〇番地住宅供給公社堀江団地八号棟二〇四号室〓田豊方において、同人所有にかかるカメラ一台(時価二〇、〇〇〇円相当)を窃取した
第二 同月九日午前一一時三〇分ころ、右〓田豊方において、同人所有の現金約二〇万円、同人名義の協和銀行発行にかかる普通預金通帳一通(口座番号八九六五五九、預金高一六万八、〇〇〇円)、「〓田豊」と刻した印鑑一個ほか一点(時価合計約七万二、〇〇〇円相当)を窃取した
第三 同月一〇日午前九時一五分ころ、同都中央区日本橋茅場町一丁目一六番地協和銀行茅場町支店において、行使の目的をもつて、ほしいままに、同店備付けの普通預金払戻請求書用紙を使用し、そのおなまえ欄にボールペンで「〓田豊」と冒書し、その名下に前記窃取にかかる「〓田豊」と刻した印鑑を冒捺したうえ、情を知らない同支店係員伊藤明をして同請求書用紙の金額欄に「¥163000」と記入させ、もつて〓田豊作成名義の普通預金払戻請求書一通(昭和五二年押第二三三四号の一)を偽造し、その場で、同係員に対し偽造にかかる右普通預金払戻請求書をあたかも真正に成立したもののように装い前記窃取にかかる普通預金通帳とともに提出行使して右同額の払いもどしを請求し、同係員をして右〓田豊が預金の払いもどしを請求にきたものと誤信させ、よつて、即時同所において、同支店係員児玉幸久より現金一六万三、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取した
第四 同月一四日午後七時ころ、同都江戸川区堀江町三、五七三番地株式会社五幸事務所において、望月和良管理および所有にかかる現金合計約五、二〇〇円および飾り物二個ほか一点(時価合計八、〇五〇円相当)を窃取した
第五 同月一六日ころの午後九時ころ、同町三、九八三番地の一スーパーママフレンズ事務所において、彦田重三郎所有にかかる現金約六〇、〇〇〇円を窃取した
第六 同月一九日午後五時三〇分ころ、同町三七六四番地大野りよ方において、同人所有の現金二〇万四、五〇〇円、太田三郎名義の定額郵便貯金証書三通(証書番号四〇〇〇五五―〇〇八四二五・額面一〇万円、同四〇〇〇五五―〇〇九二二四・額面四〇万円、同四〇一九〇四―一六二四二四・額面四〇万円、前同号の二、三、四)、「太田」と刻した印鑑一個ほか三点(時価合計約四万七、〇五〇円相当)を窃取した
第七 同月二〇日午前九時三〇分ころ、同区桑川町七〇一番地〓西郵便局において、行使の目的をもつて、ほしいままに、窃取にかかる前記定額郵便貯金証書二通(証書番号四〇〇〇五五―〇〇八四二五、同四〇〇〇五五―〇〇九二二四)の裏面受領証のおなまえ欄に、いずれも、「太田三郎」と冒書し、その各名下に前記窃取にかかる「太田」と刻した印鑑を冒捺したうえ、情を知らない同局係員岡田修をして右各受領証の払戻金額欄にそれぞれ「¥127056」、「¥493112」と記入させ、もつて太田三郎作成名義の右定額郵便貯金払戻金受領証二通(前同号の二、三)を偽造し、その場で、同係員に対し、偽造にかかる右定額郵便貯金払戻金受領証を真正に成立したもののように装い提出行使して合計六二万一六八円の払いもどしを請求し、同係員をして右太田三郎が貯金の払いもどしにきたものと誤信させ、よつて、即時同所において、同局係員野中まり子から現金六二万一六八円の交付を受けてこれを騙取した
第八 同月二三日午前一一時三〇分ころ、前記〓西郵便局において、行使の目的をもつて、ほしいままに、窃取にかかる前記定額郵便貯金証書一通(証書番号四〇一九〇四―一六二四二四)の裏面受領証のおなまえ欄に「太田三郎」と冒書し、その名下に前記窃取にかかる「太田」と刻した印鑑を冒捺したうえ、情を知らない同局係員岡田修をして同受領証の払戻金額欄に「¥477728」と記入させ、もつて太田三郎作成名義の右定額郵便貯金払戻金受領証一通(前同号の四)を偽造し、その場で、同係員に対し、偽造にかかる右定額郵便貯金払戻金受領証を真正に成立したもののように装い提出行使して同額の払いもどしを請求し、同係員をして右太田三郎が貯金の払いもどしを請求にきたものと誤信させ、よつて、即時同所において、同局係員野中まり子から現金四七万七、七二八円の交付を受けてこれを騙取した
第九 同月二八日午後七時三〇分ころ、同区新田二丁目七二番の一株式会社白子駐車場において、駐車中の普通貨物自動車内から草野久夫管理にかかるプライヤ一個ほか四点(時価合計二、〇〇〇円相当)を窃取した
第一〇 同月二八日午後九時二五分ころ、窃盗の目的で前記株式会社「白子」事務所内に侵入し、同社内の応接間の机引出しを物色中警察官等に発見されて、その目的を逐げなかつた
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
一 罰条
1 判示第一、第二、第四、第五、第六、第九の各事実につき刑法二三五条
2 判示第三、第七、第八の各事実中、各有印私文書偽造の点につき刑法一五九条一項、各同行使の点につき刑法一六一条一項、一五九条一項、各詐欺の点につき刑法二四六条一項
3 判示第一〇の事実中、住居侵入の点につき刑法一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号、窃盗未遂の点につき刑法二四三条、二三五条
二 科刑上一罪の処理
判示第三、第七、第八、第一〇の各事実につきそれぞれ刑法五四条一項後段、一〇条(判示第三、第七、第八の各事実につきいずれも最も重い詐欺罪の刑で処断、但し、いずれも短期は偽造私文書行使罪の刑のそれによる。判示第一〇の事実につき重い窃盗未遂罪の刑で処断)
三 併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第六の罪の刑に加重、但し、短期は偽造私文書行使罪の刑のそれ。)
四 未決勾留日数の算入 刑法二一条
五 没収 刑法一九条
六 被害者還付 刑事訴訟法三四七条一項
七 訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項但書
よつて、主文のとおり判決する。